短編小説「さいはての彼女」(原田マハ)
誰しも運が尽きたかとも思える最悪な瞬間はあるもの。でも人生につまづいて心に怪我を負っても、人は何度だって再生することができる。そんな風に思わせてくれる読後感の心地よい小説が原田マハさんの「さいはての彼女」だ。
収録作品
- さいはての彼女
- 旅をあきらめた友と、その母への手紙
- 冬空のクレーン
- 風を止めないで
あらすじ
「さいはての彼女」
20代半ばにして起業し、社長になった鈴木涼香の一人旅は散々な滑り出しだった。しかし、旅先で出会った少女ナギや温かなその仲間たちとの交流によって少しずつ風通しの良い心を取り戻していく。
「旅をあきらめた友と、その母への手紙」
ハグこと浜口喜美は、人生の転機に度々行った友との旅に救われていたが、今回の旅行は伊豆へのひとり旅。静寂の時を過ごすハグは宿泊した部屋に文箱を見つけ、病床にある友の母に手紙をしたためるのだった。
「冬空のクレーン」
職場の人間関係に嫌気がさした陣野志保は雪が降り積もる師走の北海道へ長期休暇をとってひとり旅に出る。そこで出会ったタンチョウヅルを愛する青年との交流は、消えかかっていた仕事のプロジェクトへの熱意を呼び覚ます。
「風を止めないで」
表題作のヒロイン、ナギの母親視点の物語。夫を事故で亡くしてからというもの失意の日々を過ごしていたある日、広告代理店の桐生陽一という男性が「ナギをバイクのキャンペーンガールにしたい」と尋ねてくる。しかし、桐生にはある秘密があった。
感想
普段は人の多い場所を避けるインドア派なのだけれど、知らない土地の空気に触れたくてふらっと旅に出たくなるような足取り軽くなる作品だった。
──天候が描写する主人公の心情の変化
原田マハさんは情景描写がとても上手い作家さんだと思う。四季や自然の美しさを滑らかな文体で表現していて、スッとその時々の状況が自然と頭に浮かんでくる。ともすれば、主人公が感じている景色を読み手側も五感で感じられるのではないかと錯覚するほどだ。
表題作の爽快な北海道の空気感はもちろんのこと、「旅をあきらめた友と、その母への手紙」「冬空のクレーン」においては、始めこそ鬱屈とした暗い情景に感じられるものの、終盤は主人公の女性たちの前向きな気持ちへの変化を表しているかの如く、明るいものになっている。
──様々な状況から再生していく過程を追体験できる
収録された短編の主人公たちは、様々な挫折を経験しながらも色んな人との触れ合いを通して、前向きに再生していく。その過程を端折ることなく読み手に追体験させてくれる本書は、今まさに挫折を経験して元気が無くなっている女性たちの心に、立ち上がる栄養を与えてくれる作品ではないかと思う。
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